伊豆石とは

伊豆石とは

今ではその産業はほとんど残っていませんが、伊豆半島は古くから、良質で多種多様な石材が採れました。伊豆半島やその周辺で生活する人々は、石を様々な物に利用していきました。伊豆半島やその周辺で採れる石材の総称として「伊豆石」という言葉が使用されてきました。伊豆石にはさらに細かく様々な呼び名や分類があり、その呼び方は石の採れる地名に由来していたり、石の特徴に由来していたりと様々です。

伊豆石は、採石される時代によっても管理の仕方や使用方法が変化してきました。重い石を運ぶ技術、他地域に先駆けた石切の技術、高価だった石材の費用…伊豆石には様々当時の人々の想いが詰まっています。研究、調査、聞き取りなどを続けていくと、これらの尊い想いが伊豆石を通して伝わってきます。細くともこれらの想いを繋いでいきたいと思っています。

伊豆石文化の魅力

一般的に日本は「木の文化」。石で出来たものって少ないのでは?と言われることがよくあります。しかし、視点さえ身につけば意外と身近にたくさん見つかる石文化。都会の片隅、田舎道。写真は、沼津市西浦地区の何気ない田舎道ですが、伊豆石で作られた町並みが残っています。東京では石やレンガの建物を建てることを法律で推奨していた時代もありました。伊豆石以外にも様々な地域の様々な石文化がひっそりと生きながらえています。

伊豆石は古来から豪族、大名などの政治権力者たちから、一般の庶民に渡るまであらゆる階層で利用されてきました。使用された地域も、北は北海道、西は四国などにまで広く渡っています。人々にとって伊豆石は、木材と同様自然の中から手に入りやすい身近な材の一つでした。長い年月の中で伊豆石は、モノとしての意義を超え、一つの文化を形づくってきました。

伊豆石産業史は庶民の歴史

「市井(しせい)の歴史」という言葉をお聞きになったことがある方もいると思います。「市井の歴史」は、「庶民の歴史」と言い換えることもできます日本は世界でも稀な、文献の歴史資料が豊富な国です。そのような日本では、「歴史」が文献を中心に作られてきた背景があります。しかし、人物の歴史、政治の歴史が比較的詳細に説明されてきた日本では、逆に、庶民が伝えてきた歴史が失われている可能性が指摘されています。

伊豆石産業史の解明にはおよそ50年の歴史があります。しかし、庶民の歴史であることによって、資料が少なく、伊豆石産業史の解明は阻害されてきました。伊豆石産業史の解明は、失われてきた日本の「市井の歴史」に光を当てるための活動です。

伊豆石文化圏が繋ぐ産地と消費地

近年自然環境問題やSDGsの機運の高まりと共に、「地産地消」などの近世以前の日本の経済活動を見直す動きが目立ってきました。未来「持続可能な社会」の構築に向けてどのように向き合うのかが問われています。

石切場で石工が切り出して、山元で加工し、背負い子が運び、船や鉄道に載せ替えて、問屋が仲介し、建築現場工事現場で利用される。この一連の流れを分析することは、「地産地消」のあり方を考えるきっかけを私たちに与えてくれます。

私たちは、伊豆石の文化によって繋がったエリアは、「伊豆石文化圏」と一体的に捉えることにしました。消耗品ではない石材は、現代まで自然な形で保存されています。産地と消費地両方に遺産が残されている石の文化は、後世にまでその産業をリアルに体感することができるのです。これらの石の遺産を一体的にとりまとめることで、将来に渡って「地産地消」の歴史を考える優良な遺産となることが期待されています。

執筆:剣持